赤いニキビ戦士の独白

気がつけば、私はここにいた。鼻の横、肌の片隅、少し赤みを帯びた小さな陣地。静かに居座るつもりだったが、朝、鏡に向かうあなたの目が私を見つけた。「またできたの？」その声には戸惑いが混じっている。無理もない。大人になってからの私たちは、不意に現れては居座る厄介者だとしか思われないのだから。

でも、私には理由がある。呼ばれたから、ここにいるのだ。あなたが無意識に蓄えた疲れ、乱れた生活、それらすべてが私をここに送り込んだのだ。誰かが教えなければならないだろう。このままではいけないと。

私は体の一部。肌の隅で小さな声を上げる、赤い警告灯だ。あなたが私を嫌うのは知っている。でも、聞いてほしい。私を無視して放っておけば、いずれはもっと大きな災いが訪れるだろうから。

その朝、あなたは洗顔料を手に取り、私に立ち向かう準備をしていた。冷たい水と泡立てた洗顔料。その指先が私に近づくたび、私は身を縮める。「違うんだ。ゴシゴシは逆効果だ」と心の中で叫びたくなる。けれど、声は届かない。本当に必要なのは優しく洗うこと。皮膚をいたわり、乾燥した大地に水を注ぐように潤いを与えることだ。

私は一人ではない。仲間たちがいる。穏やかな「白にきび」や「黒にきび」たちだ。彼らはまだ静かだが、あなたが気づかなければ、私と同じように赤く染まり、やがて膿を抱える「黄にきび」へと進化するだろう。私たちはただのトラブルメーカーではない。生活の乱れやストレスが肌に現れた、サインのような存在なのだ。

鏡の前で悩むあなたの姿を見ていると、少しだけ胸が痛む。私だって、好きでここにいるわけじゃない。だけど、あなたが変わるきっかけになれるのなら、それでいいと思っている。

数日が経ち、あなたは少しずつ変わり始めた。朝晩の洗顔を丁寧にし、保湿クリームを肌に乗せるその手つきは、どこか優しさを感じさせた。寝る前にはスマホを置き、代わりに本を開くようになった。食卓には新鮮な野菜が並び、以前よりも規則正しい生活が始まっていた。

そして、私も静かに姿を消す準備をしていた。もう役目は終わったのだ。肌が滑らかさを取り戻し、あなたの表情に穏やかな笑みが浮かぶのを見て、私の胸にも小さな達成感が広がった。

最後の日、鏡の中の私を見つめながら、あなたが小さく「ありがとう」と呟いた気がした。聞こえたのは気のせいかもしれない。でも、もしそうなら、それで十分だ。私の存在が、あなたに何かを気づかせることができたのなら。

私は消える。けれど、私が伝えたかったことを忘れないでほしい。肌の声に耳を傾け、自分自身を大切にすること。それがあなたの未来を明るくする鍵になるはずだ。

さあ、これからは新しい肌と新しい自分を楽しんで。私は遠くから、あなたの健康を祈っている。